テクニカルレポート 2022 No.9
当社製品の接着信頼性を支える技術の紹介
~被着材表面処理・接着耐熱評価・接着解析技術~

2023年2月6日

背景と課題

当社の主力製品であるモータのマグネット固定やエンコーダのディスク固定には、接着接合が使用されています。接着接合はボルト締結などの機械的結合に比べて、軽量化、剛性の向上、加工作業の簡素化など多くの特長を有する接合方法です。モータの小型化や高出力化が進む中で、安定した接着性能と高い信頼性を得るには、接着の課題である強度のバラツキや高温使用時の強度低下への対応がこれまで以上に求められます。また近年では、接着メカニズム解明と高信頼性設計のために、CAE(Computer Aided Engineering)による接着強度や破壊挙動予測の需要が増加しています。 こうした背景を受け、当社は大学と連携しながら、安定した接着性能と高い信頼性を支える最先端の技術開発に取り組んでいます。その取組みの中から、以下3つの技術について紹介します。
① 強度バラツキ低減のための被着材の表面処理技術
② 高温使用時の接着特性を評価する耐熱評価技術
③ 接着部の破壊挙動を予測する接着解析技術

接着メカニズムと破壊形態

接着メカニズム
図1 接着メカニズム


接着剤の破壊形態
図2 接着剤の破壊形態

図1に接着メカニズムを示します。接着とは「接着剤を媒介とし、機械的、物理的あるいは化学的な力によって二つの面が結合した状態」と定義されており、接着力を強くするには接着剤と被着材の距離が近接するほど良いため、ぬれ性※1が重要となります。接着剤の破壊形態として凝集破壊と界面破壊があり、またそれらの混合破壊に分類されます(図2)。更に接着信頼性を確保するためには接着剤の耐熱性に影響する粘弾性やガラス転移温度※2、クリープ特性※3を考慮した評価が必要になります。

※1 ぬれ性とは
被着材表面に対する接着剤の付着しやすさのこと
※2 ガラス転移温度とは
接着剤が柔らかいゴム状態から硬いガラス状態に変化する温度
※3 クリープ特性とは
接着剤が継続的な荷重により徐々に変形していくこと

接着信頼性を支える技術~取組み例の紹介

①強度バラツキ低減のための被着材の表面処理技術

信頼性の高い接着を実現するためには、接着強度が高いだけでなく強度のバラツキが小さいことが重要です。バラツキが大きいと接着強度の安全率を大きく設定する必要があることから、今までは設計時の許容強度を大きく見積もっていました。
金属表面は油脂や酸化物などの汚染物で覆われており、接着剤とのぬれ性を良くするには、この汚染物を除去し表面張力を増大させる必要があります。強度バラツキを低減するため、この被着材表面に着目し、一般的な脱脂処理だけではなく表面処理による接着剤とのぬれ性を改善することで、その効果を確認しました。
例えば、溶剤脱脂しただけのアルミ板表面への接着に比べてUV照射やブラスト処理※4することで安定した接着強度が得られます。このように金属に対して安定した接着強度を得るには、物理的あるいは機械的に表面の酸化膜を除去する必要があるといえます。また接着剤や金属に比べて表面張力の低い樹脂に対しては、ぬれ性を良くするために極性官能基※5を導入するための表面改質処理が有効です。例えば、難接着な樹脂表面へ酸素プラズマを照射することで、強度のバラツキ低減だけではなく接着強度の向上も図れます(図3)。

このように当社では、新規材料や異種材料などを接着する用途において、接着強度バラツキを低減する手法として、各々の被着材に最適な表面処理を適用しています。

  • アルミへの表面処理と接着強度

    アルミへの表面処理と接着強度

  • 樹脂への表面処理と接着強度

    樹脂への表面処理と接着強度

図3 被素材別の表面処理と接着強度

②高温使用時の接着特性を評価する耐熱評価技術

接着強度と弾性率の温度特性
図4 接着強度と弾性率の温度特性

接着部の耐熱温度は接着剤のガラス転移温度と被着体界面との密着性の両方の影響を受けるため、接着剤と被着体が違えば耐熱性も変わります。
当社では接着部の耐熱性を接着強度と動的粘弾性により評価しています。

接着強度評価

接着強度に弾性率の温度変化を重ね合わせたところ、強度低下は接着剤の耐熱性の指標となるガラス転移温度よりも低温領域からなだらかに起きていることが分かりました。また弾性率の温度上昇に対する低減率が変化し始める変曲点辺りから破壊形態が凝集破壊から界面破壊に変化していくことも分かり、強度低下は接着界面の密着性低下が要因になっていると考えられます(図4)。

動的粘弾性評価

多くの接着剤は弾性要素と粘性要素を併せ持った粘弾性体で、外からの力に対してばねとドアクローザー(ダッシュポット)を組み合わせたような機械特性を示します。瞬発的な力であれば弾性要素のみに作用して変形し、力を除けば元に戻りますが、継続的な力が加わった際には、粘性要素をどんどん変形させていき元の形には戻りません。クリープ※3は荷重が大きく、そして温度が高いほど発生します(図5)。
このように、クリープ変形による強度低下により破壊に至る場合があるため、動的粘弾性が耐熱性を考える際の重要な要素として評価しています。その評価方法として当社では、大学との連携により、マスターカーブからクリープによる応力緩和の推定を行っています(図6)。

接着剤の弾性要素と粘性要素のメカニズム
図5 接着剤の弾性要素と粘性要素のメカニズム

外力により一定のひずみを与えたとき、時間経過によりひずみが加わった状態のままでも応力が緩和され弾性率が変化していきます。データは一定温度での緩和曲線として測定しますが、異なる温度の応力緩和曲線の時間軸をずらして重ね合わせられることが経験的に知られており、これを温度-時間換算則といいます。今、110℃の応力緩和曲線を基準としてそれを右側に延ばしていくように120~160℃の曲線を重ね合わせると一本のマスターカーブに合成できます。このマスターカーブから110℃で数年経過するまでの応力緩和が推定できます。

マスターカーブからクリープによる応力緩和の推定結果
図6 マスターカーブからクリープによる応力緩和の推定結果

③接着部の破壊挙動を予測する接着解析技術

CZMの概念
図7 CZMの概念※6


DCB試験概要と試験結果
図8 DCB試験概要と試験結果

製品開発プロセスにおいて、試作実験の前段階で製品の強度や剛性、破壊モードを予測する手段としてCAE解析が広く用いられています。近年CAEの発達に伴って接着接合部の解析モデル化が可能になり、なかでも破壊力学に基づく解析手法の一つであるCZM(Cohesive Zone Model)が代表的な手法となっています。CZMはき裂先端近傍の領域を、き裂が閉じる方向に結合力が働く領域として表現することで、接着剤の損傷開始から材料の分離にいたるまでの破壊過程を模擬できます(図7)。結合力は、DCB(Double Cantilever Beam)試験によって求められる、き裂進展の際に失われるエネルギーである”エネルギー解放率GIC”を用いて評価します(図8)。

当社では、大学との技術連携により、CZMを用いた接着接合部解析技術を構築しました。金属 同士をはりあわせた接着試験片において、接着部にCZMモデルを適用することで実測結果に対して精度よく解析ができます(図9)。

CZMを用いた接着接合解析結果
図9 CZMを用いた接着接合解析結果

※4 ブラスト処理とは
粒子や粉体を噴射して被着材表面の粗化や研削する加工処理
※5 極性官能基とは
分極しており接着剤との化学反応を有する結合構造のこと

※6 CZMの概念 参考資料
Y.Sekiguchi, J. Adhesion Soc. Jpn., 56,447(2020).

今後の展望

接着信頼性を確保するために当社で取り組んでいる表面処理技術や耐熱評価技術、接着解析技術について紹介しました。今後、これらの技術は当社サーボモータのマグネット接着信頼性設計への適用を予定しています。
今回紹介した技術は課題解決のための一例であり、更なる接着信頼性を向上させるために、接着設計や接着作業、信頼性評価やCAE解析など各要素技術の連携をより進めていきます。

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