テクニカルレポート 2022 No.5
食品加工および中食市場における自動化への挑戦
~特殊表面処理・食品仕様ロボットMOTOMAN-GP8の開発~

2022年9月7日

開発の背景・経緯

MOTOMAN-GP8

日本国内における食品衛生法の改正、および2020年6月からのHACCP※1の義務化に伴い、“衛生管理”、“異物混入対策”に対する市場の関心が高まってきました。また、昨今のコロナ禍の影響もあり、ロボットを用いた新しいアプリケーションとして、食材の開梱・下処理・加熱処理・トッピングや包装といった、食品に直接触れる工程の自動化を実現するソリューションの提供が求められています。
当社はこのような要望に応えるために、新たなソリューションを提供する手段として、特殊表面処理・食品仕様ロボット MOTOMAN-GP8を開発し、2021年10月に販売開始しました。

※1 HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)とは
国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同機関である食品規格(コーデックス)委員会が示し、国際的にも推奨されている。原材料の入荷から製造、製品の出荷、提供までの全工程を整理し、そのプロセスの中で異物混入や食中毒の原因になる菌による汚染などの危害要因(ハザード)を分析。リスクを除去または低減させるために、特に重要な工程を管理し、科学的根拠を基に管理基準を設け製品の安全性を確保する手法

開発機種の特長

1.食品市場に求められる機能

食品市場におけるロボットの使用においては、以下3つの項目を満たすことが必要不可欠です。

①防じん・防滴・防錆

ちり、ほこりや洗浄液などの液体がロボットの内部に侵入、あるいはロボットの潤滑材などの外部への漏れ、水などがロボットの筐体に長時間滞留することによる錆びなどが発生しないこと。

②耐薬品性・サニタリー性

清掃に用いる酸性・アルカリ性・アルコール類など、種々にわたる洗浄液に対し、ロボットの筐体もしくは各種機械要素の物理的・化学的性質が劣化しないこと。また、異物混入や長期にわたる食品の筐体への付着による雑菌繁殖などが発生しないような衛生的な状態が常に保たれること。

③食品機械用潤滑剤

ロボット各軸の可動部やギヤに塗布・充填する潤滑剤として、万が一ラインに混入しても極力健康に被害を与えないH1認証※2を取得した食品機械用潤滑剤を採用することで、潤滑剤混入リスクへの対策をとること。

※2 H1認証とは
NSF(国際衛生科学財団)が規定している食品機械用潤滑油の規格

2.従来の食品向けロボットからの変更点

当社がこれまでに開発した従来の食品市場向けのロボットは、主に包装された食品を搬送する用途をターゲットとしていたため、前項に挙げた、①~③のうち、②については特に考慮はしておりませんでした。したがって、従来との変更点は、上述した①~③の項目の実装または改善となります。

①防じん・防滴・防錆 ⇒ 防錆を強化

本開発機種は、標準仕様でIP67※3という保護等級を有しています。さらに、食品市場向けの用途に耐えうる構造とするため、ボルトなどの締結部材を業界で実績のあるステンレス製の材質に変更することは言うまでもなく、外観に露出する部品については、従来の塗装ではなく、特殊な表面処理を採用することにより、塗装片などが生産ラインに落下する異物落下・侵入を抑制しています。

※3 IP67とは
電気機器内への異物の侵入に対する保護等級の規格で、粉じんが内部に侵入せず、規定の圧力、時間で水中に浸せきしても有害な影響を受けないレベル。高圧洗浄には未対応。

②耐薬品性・サニタリー性 ⇒ 耐薬品性・サニタリー性を考慮した設計

実際の食品工場では、日常清掃として設備のふき取り作業に加え、定期清掃の一環として、洗浄液を用いた清掃を実施しています。清掃に用いる洗浄液は酸性・アルカリ性・アルコール類など、種々にわたっており、これらの洗浄液に耐性のある構造を実現する必要があります。当社が開発したロボットは、外観部品に特殊な表面処理を施すことにより、食品業界で使用する複数の洗浄液に対しては十分な耐性を有する構造を実現することができました。食品加工や食品を直接取り扱う、いわゆる包装前の工程においては、設備は常に清潔に保たれていなければなりません。したがって、ロボットが洗浄されることを想定し、筐体は可能な限り丸みを帯びた滑らかな形状を基調とし、また凹凸形状をできる限り少なくすることが衛生上望ましい形状となります。幸い、MOTOMAN-GP8は “丸みを帯びた滑らかな形状”を標準仕様のコンセプトとしているため、外観部に使用するボルトを可能な限り、凹部のない六角ボルトに変更することにより、洗浄後の衛生面の対策を強化しています。

③食品機械用潤滑剤 ⇒ 食品機械用潤滑剤を改善

従来機種に採用していた食品機械用潤滑剤では、ロボットの使用環境温度は15℃~45℃であり、特に包装前工程の工場における低温環境下での自動化という、市場のニーズに十分に応えることができていませんでした。しかし、より低温領域で使用可能な新たな食品機械用潤滑剤の採用により、標準仕様と同様に、0℃~45℃の使用が可能となり、ロボットの適用できる用途が拡大し、食品用途としての市場の要望を満たすことができました。

日刊工業新聞社主催「第52回 機械工業デザイン賞IDEA 審査委員会特別賞」を受賞

特殊表面処理・食品仕様ロボット MOTOMAN-GP8は、ハンドリング用途に最適化された標準仕様の高い性能を維持しながらも、食品用途に求められる「耐薬品性能」と「サニタリー性」を考慮した設計を実現した点が評価され、「第52回 機械工業デザイン賞IDEA※4 審査委員会特別賞」を受賞しました。

※4 機械工業デザイン賞IDEAとは
日刊工業新聞社が日本の工業製品デザインの振興・発展を目的に1970年に創設された賞であり、その年のデザインの方向性を示唆する先端的製品を選定し表彰しています。

課題と将来の展望

食品市場は、昨今のコロナ禍において、より一層自動化への期待が高まっています。食品市場では、いまだに人手に頼る作業が多く、人の作業の柔軟さを実現するための高度な自動化が必要です。そのためにはロボットが自分で考えて動作するロボットの自律化が必要不可欠と考えており、自律化のための様々な技術開発を進めています。今後も本課題の解決とその先にある新たなソリューションの提供に尽力していきます。

関連記事

PAGE TOP