テクニカルレポート 2026 No.3
人手に依存した作業領域の自動化に挑むAIロボティクス
~AIロボットMOTOMAN NEXT活用事例の紹介~

キーワード多品種少量生産, Easy to Use, 高効率化, ロボット,食品
関連製品 MOTOMAN NEXT-NHC12, AlliomWorks CupLoader

2026年6月23日

1. はじめに

産業用ロボットはこれまでの自動化の進展に大きく貢献してきました。一方で、人の五感や、「問題なさそう」、「適切に仕上がっている」といった経験に基づく曖昧な判断を伴う作業は人に依存せざるを得ず、人材確保や技能伝承が大きな課題となっています。このような課題に対して、視覚や触覚などの情報から作業の状態を認識し、曖昧な状況を柔軟に判断・行動できるAIロボティクスへの期待が高まっています。
当社はこのニーズに対し、AIロボット「MOTOMAN NEXT」を開発しました。MOTOMAN NEXTは、AIロボティクスを実現するプラットフォームとして、図1に示すように自律制御ユニット(ACU; Autonomous Control Unit, 以降、ACUと記載)※1をロボットに内蔵しており、ロボット自身が周辺環境の変化を認識・判断し、リアルタイムに動作を計画・実行することができます。AIを実行するためのGPUや様々なセンサーや機能をロボットに標準搭載しているため、パートナー(ユーザー)様が必要な機能をソフトウェアパッケージとして容易に構築し、ロボットに組み込むことができるようになっています。本稿ではMOTOMAN NEXTによるソリューションとして3つの事例、①バイオ実験、②箱詰め作業、③透明・不定形物のピッキング作業を紹介します。

オープンプラットフォーム
図1 オープンプラットフォーム

※1 自律制御ユニットとは
AIロボティクスに必要な機能であるマシンビジョン・力覚・AI・パスプランニング、ロボット制御サービスを標準搭載し、それらを活用したAIロボティクスのアプリケーションを内部に実装可能なユニット

2. 事例の詳細と技術・製品の特長

2.1 事例1 バイオ実験

1)自動化における課題・ニーズ

バイオ実験では、自然由来の試料(サンプル)を扱うことが多く、細胞培養や検査工程では、形状や状態が毎回異なる試料を作業者が目視で判断をしていました。こうした作業は、作業者によってばらつきが発生しやすく、また試料によっては感染など危険を伴うことから、安全性と品質を高める自動化ニーズが高まっています。

2)適用事例

細胞培養の工程では、細胞を剥離し、新しい容器に移す「継代(けいだい)」という作業があります。これまでは、細胞の分散度合いや内容物の混ざり具合を人が目視で認識し、剥離・回収の順番を判断してきました。この認識や判断にAIを導入することで、ばらつきの少ない安定した判断が可能となり、ロボットによる自律的な自動化を実現しました。

3)製品・機能の特長と技術の詳細

細胞剥離のためのAIによる細胞の認識・判断データ例
図2 細胞剥離のためのAIによる細胞の認識・判断データ例

この事例では、図2に示すようにカメラで細胞の付着状態を撮像し、その画像をAIが解析します。AIは細胞の塊の大きさや分布を認識・判断し、それに基づいて細胞を剥がす動き(剥離軌道)を計画します。ロボットはこの計画に従って動作を実行し、小さな細胞の塊がなくなるまで、この工程を繰り返します。これにより細胞の状態変化にも柔軟に対応します。

AIを実行するためのACUを内蔵したMOTOMAN NEXTだからこそ、こうしたAIによる認識・判断・計画・実行をシームレスに実現できます。さらに、自動化によって作業データが蓄積され、そのデータを活用してAIを再学習させることで、作業効率や品質の更なる向上が可能になります。
この技術は、資源・リサイクル分野において、金属回収などの多種多様な材質を人が目視で判断している作業への応用が期待できます。

2.2 事例2 箱詰め作業

1)自動化における課題・ニーズ

近年、ニーズの多様化によって1つの作業で多くの種類の商品を扱うケースが増えています。例えばネットスーパーの箱詰め作業では、人が商品を無意識に分類し、配置を考えながら整列させています。しかし、多くの種類の商品に対して適切な判断を行う作業は、従来のルールベースの仕組みでは対応が難しく、システムが複雑化して実運用が困難という課題がありました。そのため、シンプルで扱いやすいソリューションが求められています。

2)適用事例

MOTOMAN NEXTでの箱詰め例
図3 MOTOMAN NEXTでの箱詰め例

ネットスーパーの箱詰め作業では、図3に示すように、重くて大きい物は下へ、軽い物や割れやすい物は上に置く、と人が判断して整列しています。
この判断にAIを活用することで、複雑なアルゴリズムを用いないシンプルな自動化ソリューションを実現しました。またシミュレータ(仮想空間)の中で、判断を行うAIモデルのトレーニングをすることで短時間で効率的な学習を実現しました。

3)製品・機能の特長と技術の詳細

この事例では、あらかじめ把握した箱に詰める商品の大きさや重さ、割れやすいといった特徴情報に基づき、AIがどの順番でどの商品を取り出し、どこに配置すべきかを判断・計画することで、柔軟な箱詰め作業を実現しました。AIモデルのトレーニングでは、NVIDIA®社のNVIDIA Isaac Sim™※2 およびNVIDIA Isaac™ Lab※3を用いてシミュレータ上に学習環境を構築し、強化学習によって最適な箱詰め方法を学習させました。これにより、いずれかの製品種類の注文が増えた場合でも、シミュレータ内で検証・確認することが可能です。作成したAIモデルはACU内にそのまま実装可能で、仮想環境で学習したAIモデルを現実空間に直接適用することができます。
この技術は、物流分野において、トラックの積載条件や荷物の大きさに応じてダンボールを整列させる積付け作業などへの応用が期待できます。

※2 NVIDIA Isaac Simとは
NVIDIA Omniverseを基盤としたロボティクス向けシミュレーションおよび合成データ生成のためのアプリケーション。現実の物理現象を再現した仮想環境上でAIロボットの開発、テスト、検証を実現。

※3 NVIDIA Isaac Labとは
NVIDIA Omniverse上で動作するGPUによる高速処理に対応したロボット学習フレームワーク。強化学習および模倣学習による大規模なロボット学習が可能。

2.3 事例3 透明・不定形物のピッキング

1)自動化における課題・ニーズ

透明・不定形物の取扱いは、従来のルールベースのロボットビジョンでは認識が難しく、自動化が進んでいませんでした。そのため、解決策としてAI認識の活用が広がっています。しかし、AI導入にはアプリケーションの構築・現場運用の難しさがあり、現場で扱いやすいAIアプリケーションの提供が求められています。本事例では、スタックされたカップを食品充填機やカップ印刷機などの装置に投入する作業の自動化に、株式会社エイアイキューブが開発したカップ搬送のソフトウェアパッケージAlliomWorks CupLoaderを活用した取組みを紹介します。

2)適用事例

スタックカップ例
図4 スタックカップ例

カップを充填機に投入する工程では、箱の中にある透明なスタックカップをロボットで取り出し、充填機に整列させる必要がありました。図4に示すように箱の中では、透明なカップが様々な状態で連なっています。
AlliomWorks CupLoaderでは、AIがこのようなスタックカップの状態を認識し、安定して把持できる位置を算出します。これにより、カップの取出しから投入までを安定して行うことが可能となりました。

3)製品・機能の特長と技術の詳細

AlliomWorks CupLoaderは、図5に示すように多種類のカップ対応が可能です。本事例では、スタックされたカップをカメラで撮像し、図6のように箱の中で曲がった状態のスタックカップであっても、AIがカップの連なり方を認識・識別し、把持すべきポイントを判断しています。ロボットはその指示に従って連なったカップを取り出し、装置へとセットします。AlliomWorks CupLoaderはこれら一連の動作を実現するためのソフトウェア・学習済みAIモデル・GUIをパッケージとして提供しており、これまでAIロボットを扱ったことのないユーザーでも、簡単にセットアップして運用することが可能です。
MOTOMAN NEXTは、このようなソフトウェアパッケージをパートナー(ユーザー)様が容易に構築できるよう、AIを実行するためのGPUや視覚・力覚センサーなどによるセンシング機能、パスプランニングなどの機能をロボットに標準搭載したオープンプラットフォームとなっています。また、外付けPCは不要で、導入・運用負担を軽減しています。オープンプラットフォームであることから、SIerやAIベンダーなど様々な方々が所有する最先端のAI技術やデータ処理技術、センシング技術をMOTOMAN NEXTに組み込み、動きにつなげることが可能です。

  • 対応カップ例

    図5 対応カップ例

  • 認識結果例

    図6 認識結果例

3.おわりに

産業・医療・物流などでの人手不足を背景に、認識・推論・計画などの高度な知的能力を持つフィジカルAIが社会を支えるソリューションとして注目されています。当社はAIロボティクスを実現するプラットフォームとしてAIロボット「MOTOMAN NEXT」シリーズを展開し、日刊工業新聞社「2025年 第68回 十大新製品賞」本賞、第10回「ものづくり日本大賞」の「ものづくり日本大賞 九州経済産業局長賞」を受賞しました。今後も人手作業の自動化に貢献すべく、利便性の高いプラットフォームの構築を推進し、AIロボティクスを軸としたフィジカルAIの力で社会課題の協創と新たな価値創造に挑戦し続けます。

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