Vol.83 No.1 2018年の技術の成果

巻頭言

小笠原 浩

代表取締役社長
小笠原 浩
Hiroshi Ogasawara

 2018年の当社を取巻く経済状況は,米中貿易摩擦,英国のEU離脱問題,中国におけるスマートフォン関連の投資減速などの影響でマクロな見方では踊り場を迎えています。一方,国内における人手不足やグローバルでの人件費の上昇などを背景に,生産現場における自動化や効率化に取組む動きが高まっています。この中では,これまでの装置の性能を単に高めて生産性を向上する手法ではなく,効率的に装置を動かす,あるいは装置の周辺にある機器を融合させて無駄を省くなど新しいソリューションが求められています。

 このような状況下,当社はサーボ,インバータ,ロボットなどのコア製品を更に発展させるとともに,これらのコア製品や装置から得られるデータの収集・視える化から蓄積・解析などのデジタルデータソリューションを提供する「i3-Mechatronics(アイキューブ メカトロニクス)」をコンセプトに掲げ,お客様の生産現場における課題を解決する販売スタイルを強化し,これを支える技術開発を進めてきました。2018年3月には,AIソリューション開発を強化する新会社「エイアイキューブ」を設立し,AI技術の開発を加速させています。また,「i3-Mechatronics」を具現化した工場として,2018年12月,入間事業所(埼玉県入間市)に「安川ソリューションファクトリ」を本格稼働させました。「安川ソリューションファクトリ」では各工程の自動化だけにとどまらず,「i3-Mechatronics」の中核となるソフトウェアツールYASKAWA Cockpitを適用して各工程間をデータで接続し,データ収集・視える化から蓄積・解析までを行い,生産効率の向上,故障予知,設備の予防保全など生産現場における様々なソリューションの有効性を実証できるようになりました。今後,「安川ソリューションファクトリ」で実証したデジタルデータソリューションや新製品・新技術を顧客に提供することで,お客様の高付加価値生産ラインに貢献していきます。

 2018年の個別の事業分野の技術開発については以下のとおりです。

 モーションコントロール事業では,「i3-Mechatronics」のコンセプト実現に向けて,データ検出機能を向上させたACサーボドライブ,マシンコントローラのラインアップを拡充させました。ロボット事業では,めまぐるしく変化するものづくりの現場にフレキシブルに対応するため,簡単移動・簡単設置を可能にした人協働ロボットのハンドキャリータイプや,食品搬送分野などの自動化要求に応えた耐環境性の高いハンドリングロボットなどを製品化しました。システムエンジニアリング事業では,IoTやAIを活用し,上水道設備においてベテラン運転員のノウハウを蓄積したビッグデータから機械学習によって予測値を算出する薬品注入量支援システムを開発しました。研究開発では,「i3-Mechatronics」の実現に向けて,移動ロボットの作業効率を高めた画像処理技術,サーボにおける高速度応答センサレス制御などの開発に取組んでいます。

 当社は,2019年から長期経営計画「2025ビジョン」を目標に据えた新中期経営計画「Challenge25」を開始します。この中では「i3-Mechatronics」コンセプトの強化を図るとともに,その実現を推進していきます。具体的には装置の融合やセル内を統括制御するため,モーションコントローラ,ロボットコントローラの融合を進めます。また,サーボとインバータのコア技術の共通化などを図っていきます。更に,「安川テクノロジーセンタ(仮称)」を開設し,開発力を集約するとともに基礎研究から量産試作までを一貫して取組みます。加えて,オープンイノベーションの強化により最先端技術を取込みます。今後とも新たな事業領域に挑戦し続ける当社のソリューションにご期待ください。

安川ソリューションファクトリ

[モーションコントロール事業]安川電機(瀋陽)有限公司第3工場の竣工

 中国での自動化・ロボット化の加速に伴い,自動化機器の主要コンポーネントであるサーボモータ,サーボアンプの今後の需要拡大が見込まれることから,生産能力を増強するため,遼寧省瀋陽経済技術開発区に第3工場を増設した。工場の「視える化」をコンセプトとした最新の生産管理システムを導入することで,生産状況のリアルタイム管理を実現し,埼玉県入間市のマザー工場と連携したグローバルな生産情報を共有できる体制を確立していく。

瀋陽有限公司第3工場

安川電機(瀋陽)有限公司第3工場

[モーションコントロール事業]i3-Mechatronicsの統合ソリューション

ロボットモジュールRM100

 新たなソリューションコンセプトであるi3-Mechatronics(アイキューブ メカトロニクス)のデジタルデータソリューションとして,マシンコントローラMP3000シリーズにおいて,ロボットの制御が可能となるロボットモジュールRM100を製品化した。装置とロボットの同期制御が可能となるほか,当社製ロボットだけでなく,ユーザが開発したロボットも制御することが可能となる。

[モーションコントロール事業]マシンコントローラ,サーボドライブのデータ検出機能の向上

 i3-Mechatronicsの「integrated(統合的)」強化のため,主力製品であるMP3000シリーズ及びACサーボドライブΣ-7シリーズのデータ検出機能を向上させるソフトウェアのバージョンアップを行った。今回のバージョンアップにより,従来と比べてより多種・大量のデータを詳細に監視することを可能とした。

データ検出機能強化

[モーションコントロール事業]インバータの機能拡充

 様々なものづくりの現場で発生するビッグデータの収集・視える化,そして,蓄積・解析を一括して行うことができるソフトウェアツールYASKAWA Cockpitと連携できるように,インバータの機能を拡充した。また,インバータのカスタマイズツールDriveWorks EZを用いて,アプリケーションごとに,故障予知機能を提供している。例えば,ベルト駆動機械ではベルトやベアリングなどの劣化を予知し,昇降コンベヤではベルトやプーリの劣化を予知し,水平搬送機ではローラの劣化を予知することにより,ユーザの生産現場へのソリューション提供ができるように取組んでいる。

故障予知機能

[モーションコントロール事業]主な広報・展示会

FOOMA JAPAN 2018 当社ブース

(1)FOOMA JAPAN 2018(2018年6月12~15日,東京ビッグサイト)では,「YASKAWA と描く,これからの食づくり-生産性向上を加速する自動化ソリューション-」をメインテーマにi3-MechatronicsやΣ-7,高性能インバータGA700などを紹介し,好評を得た。

第21回関西機械要素技術展 当社ブース

(2)第21回関西機械要素技術展(2018年10月3~5日,インテックス大阪)では,「スマートファクトリを実現するi3-Mechatronics」をメインテーマ に,ACサーボドライブによる異常検知,インバータによる機械の故障予知,モーションフィールドネットワークMECHATROLINK-4,中空モータなどを展示し,当社のIoT(Internet of Things)やインダストリ4.0の取組みについて多くの来場者の関心を集めた。

[ロボット事業]市場の変化と当社の取組み

Yaskawa Europe Robotics d.o.o(イメージ)

安川(中国)機器人有限公司第3工場竣工式

 産業用ロボット需要は日本,欧州,米国,中国,韓国の自動車・電子デバイス業界を中心に成長している。製造業の拡大,人件費高騰などの社会情勢の変化及びロボット技術の進化により,コストダウンを目的とした導入に加えて生産力を確保するための導入が進んでいる。このような市場環境からロボット需要は継続的に高まると考える。

 当社が提唱するデジタルデータソリューション「i3-Mechatronics(アイキューブ メカトロニクス)」をコンセプトとしたユーザソリューション提案を強化し,世界各地での需要に対応するため,開発・生産体制強化及び現地企業とのアライアンスの取組みを進めている。

 欧州では現地顧客ニーズに細かく対応することで現地での競争力を向上するため,スロべニアに設立したYaskawa Europe Robotics d.o.oの量産開始に向けた準備を整えている。

 中国では,当社子会社の安川電機(中国)有限公司が,中国の安徽瑞祥工業有限公司と自動車の自動化生産設備の製造・販売に向けた資本提携を開始した。中国で自動車メーカに対して生産管理や販売ルートに強みをもつシステムインテグレータである安徽瑞祥工業と協業することで,中国市場で多様化する顧客ニーズに新たな提案を行っていく。

 更に,中国江蘇省常州市にある安川(中国)機器人有限公司第3工場の竣工により,生産能力を1,500台/月に拡大し,今後継続的な成長が予測される中国市場の需要に対応する。

[ロボット事業]新製品の投入

 2017国際ロボット展で展示した新製品を順次市場投入した。

 溶接用途ロボットにおいては,MOTOMAN-SP225Hを始めとする中空構造の上腕部を持つ中大型ロボットを製品化した。これにより,自動車業界での高付加価値生産ライン構築に貢献できる。また,人と同じ空間での作業が可能な人協働ロボットMOTOMAN-HC10DTハンドキャリータイプを市場投入した。MOTOMAN-HC10DTの特長である自在性を移動台車と組合せることで,異なる作業に柔軟に対応する工程変動生産が可能になった。更に,人協働ロボットに対応するスマートペンダントを製品化し,ロボット操作初心者や不慣れなユーザでも簡単操作を実現した。

MOTOMAN-HC10DT ハンドキャリータイプ(左)とスマートペンダント(右)

 デジタルソリューションを構築するためのソフトウェアツールとして,様々なものづくり現場で発生するビッグデータをサーボ,ロボットを中心とした製品を介して集め,データの収集・視える化,蓄積・解析を一括実施できるYASKAWA Cockpitを製品化した。

i3-Mechatronics(YASKAWA Cockpitとの連携イメージ)

[ロボット事業]展示会

2018国際ウエルディングショー
当社ブース

 2018国際ウエルディングショー(2018年4月25~28日,東京ビッグサイト)では,ディジタルインバータ溶接電源MOTOWELD-X500を始め,新型スポット溶接ロボット及びレーザ溶接ロボットシステム,i3-Mechatronicsコンセプトに基づいたデータソリューションを展示し,来場者の好評を得た。

[システムエンジニアリング事業]鉄鋼システム

 国内鉄鋼各社は大幅に収益が回復し,需要も好調でフル生産状態である。また,3年連続で前年度を上回る積極的な設備投資が計画され,自動車用超ハイテンや電磁鋼板などの先端素材の生産増強と同時に,設備のリフレッシュによる安定生産とコスト削減による競争力強化を進めている。一方で,要員不足による操業維持への影響が懸念されており,その解決策として従来の省力化投資にこだわらない自動化への関心が高まっている。

 このような市場の変化に対し,当社はオペレータ作業時間の短縮及び操業効率の向上を実現する自動化システムや,省力化を実現するロボット応用システムの開発,導入に取組んだ。

[システムエンジニアリング事業]社会システム

 2018年度の下水道関連予算は2017年度並みとなり,電気設備発注ボリュームも2017年度と同規模であった。一方,従事する職員の減少,高齢化に伴い,下水処理運営のノウハウ継承が課題となってきている。

 このような市場状況に対し,当社はベテラン職員のノウハウを継承しオペレータ支援を実現する薬品注入運転支援システムや,設備監視の広域化と制御品質の向上,及び災害時の事業継続対策を実現する浄水場におけるクラウド監視システムに取組んだ。

下水処理運転管理

下水処理運転管理支援技術に関する研究

 

薬品注入量支援システム

薬品注入量支援システム

[システムエンジニアリング事業]主な広報・展示会

下水道展’18北九州 当社ブース

 下水道展’18北九州(2018年7月24~27日,西日本総合展示場)では,「水環境と省エネをトータルでサポート」をテーマに,下水道用電気品を展示し,多くの来場者の関心を集めた。

[システムエンジニアリング事業]環境エネルギー

某社向け風力発電用発電機(8.6~10 MW)

 風力発電市場は,欧州を中心に洋上風車の導入が拡大,アジア市場でも洋上風力計画が加速,拡大している。

 また,太陽光発電市場では,米国は太陽電池のセーフガード発動により短期的な市場低迷が継続,国内は既認可案件の早期運転開始と太陽光自家消費の採用拡大の動きが本格化している。

 このような市場の変化に対し,当社は環境エネルギーの各事業拠点を需要地(欧州,米国)に再編してグローバル展開の加速に取組んだ。

[研究開発]World Robot Expo 2018にリモコン組立ライン(i3-Mechatronicsコンセプト)を出展

World Robot Expo 2018 当社ブース

リモコン組立ライン

 World Robot Summit(2018年10月17~21日)は,経済産業省とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が主催するロボットの競技会と展示会の国際大会である。2020年の本大会に向けてプレ大会として開催され,4万人以上が来場した。企業・団体,自治体による最新のロボット技術を展示するWorld Robot Expoにリモコン組立ラインを出展した。

 本装置ではi3-Mechatronics(アイキューブ メカトロニクス)の特長である装置間連携,ライン集積性の向上,データの視える化などをアピールした。連続的に動作する搬送装置に対して,そのモーションに同期して小型ロボットMotoMINI 10台が高速で組立・分解作業を遂行する。コンベヤ同期機能により,速度を変化させても組立作業を追従させることができる。ワークとしては3C市場をイメージしたリモコンを採用した。装置の上部にモニタ画面を設置して装置から取得したデータを表示し,注目を集めた。

[研究開発]ロボット産業マッチングフェア北九州にてMECHATROLINK-Ⅲデータ収集&解析モジュールを参考出展

ロボット産業マッチングフェア北九州2018
当社ブース

データ収集&解析モジュール

3軸ロボットデモ装置

 ロボット産業マッチングフェア北九州2018(2018年6月13~15日,西日本総合展示場)にデータ収集&解析モジュールを参考出展した。

 本モジュールはモーションフィールドネットワークMECHATROLINK-Ⅲに流れるデータを最速125μs 周期で収集してモジュール内部に蓄積し,集 めたデータを内部でリアルタイムに解析できる。既存の設備に後付けして使用することも可能である。展示では,本モジュールを3軸ロボットのデモ装置と接続し,データの収集と解析によって装置の異常をリアルタイムに検出できることを紹介した。期間中,多くの来場者から今後の開発に有用となる多数の意見を得ることができた。

[研究開発]平成30年度九州地方発明表彰

九州地方発明表彰

(1)「交流モータの制御装置(特許)」が,インバータ機器の普及促進への貢献を評価され,九州産業技術センター会長賞を受賞した。本発明は,主に産業用途において普及が望まれている永久磁石同期モータに対し,調整の難しい制御パラメータを自動調整するもので,セットアップ時間の短縮と制御性能の向上に寄与する。これにより,永久磁石同期モータ適用範囲が広がり,更なる普及・省エネ化に貢献できる。

(2)「電動機制御装置の共振周波数検出装置(特許)」が発明奨励賞を受賞した。サーボドライバ内に独自の共振周波数検出装置を内蔵することで,機械につないだサーボモータを稼働させて共振周波数を把握し,その特性に合せてサーボドライバを簡単に最適に調整できる。

 本機能は「EasyFFT」という名称で,Σ-7シリーズほか各種サーボ製品に搭載され,産業用機械の生産性向上や生産品の品質向上に寄与する。

[技術論文]実演教示による研磨作業のロボット化

 研磨作業の多くは人手で行われているが,人材確保が困難になっている。また,熟練度による品質のばらつきを減らすためにも,研磨作業のロボット化のニーズが高まっている。一方,ロボットに研磨動作を教え込むのは難しく工数がかかる。一部ロボット化を進めているメーカもあるが,教示に時間がかかるために多品種に対応するのは難しい。このような問題を解消するため,当社ではプログラミングペンダントに代わる簡単教示機能を開発して研磨作業などのロボット化をサポートするとともに,多品種対応時のシステム立上げ時間短縮に貢献することを目指している。今回,産業用ロボットに不慣れなユーザでもプログラミングペンダントを使わず簡単かつ短時間に教示ができ,人と同等の作業品質を確保できる実演教示機能を開発した。本機能は,直感的な教示デバイスで作業者のワークの位置姿勢と力を取得し,ロボット動作に変換することができる。

 本稿では,実演教示機能の内容及び研磨作業での検証結果について述べている。

研磨作業のロボット化

[技術論文]嵌合スキル獲得技術

 産業用ロボットの生産性を更に高めるには,嵌合などの様々な組立作業に対して,部品の接触あるいは位置・姿勢の状態などのセンシングデータに合せた適切な動作を実行することが重要となってくる。当社の産業用ロボットMOTOMANは,オプション機能である6軸力覚制御機能MotoFitにより嵌合作業が可能である。しかしながら,MotoFitは対象ワークに対して作業効率の良い動作にするためのパラメータ調整に時間がかかる。また,軸に対する穴の位置や姿勢のずれが大きいときの作業効率は悪い。そこで当社では円柱嵌合を対象として,機械学習による動作生成手法を開発した。この手法では,ロボットが自律的にデータを収集し,ずれに対して適切な動作方向を決定するモデルを生成する。これにより,位置や姿勢のずれに対しロバスト性のある嵌合作業の獲得が期待できる。また,獲得される嵌合作業はMotoFitの性能以上の嵌合作業が可能である。

 本稿では,組立作業へのAI技術適用として開発した円柱嵌合についてのスキル獲得技術の概要と評価結果,及び今後の展望について述べている。

嵌合スキル獲得技術

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