Vol.80 No.2 インバータソリューション特集

インバータソリューション特集によせて

善家 充彦

執行役員
インバータ事業部長
善家 充彦
Michihiko Zenke

 COP21(気候変動枠組条約第21回締約国会議)パリ協定の調印が,世界175か国によってなされたのは記憶に新しい。これは史上初めて地球温暖化ガス排出大国を含む全ての国が取組む枠組みであり,画期的なことと位置付けられている。温暖化ガス排出をこのまま放置した場合,世界平均地上気温が5℃程度上昇することと,それに伴い海面が1m近く上昇することを阻止するために温暖化ガスの削減目標を取決めたものである。温暖化ガスのうち7割強をCO2が占め,そのうちの7割強をエネルギー変換・産業・業務・家庭などの電気関係が占めている。更に,電気消費の中で5割がモータによるものであり,モータの省エネが産業界での重要課題である。この解決策の一つとして,モータの高効率規制であるIE3相当のトップランナー方式が日本にも導入された。一方,インバータはモータの回転速度を制御する装置であり,機械や装置の動きの円滑化や高性能化を実現するだけでなく,工場の生産性向上や省エネに大きく貢献する。エアコンなどの空調機器においてもインバータ搭載機が普及している。このことからもインバータがユーザの快適性と省エネを同時に実現する身近な製品であることを感じていただけるであろう。

 インバータ市場は,上記のグローバルなCO2排出削減の観点や先進国での機械・装置の進歩,新興国の発展に伴い,今後も堅調に成長していくものと予想される。成長に従い,インバータには更なる環境適合性,省エネ技術の進化,高効率化が求められてくる。インバータは負荷に見合ったモータ回転速度に制御できるため大きな省エネ効果を得ることができるが,これに加えて各回転速度や負荷の状況に応じモータ効率が最大になるように制御する技術やインバータ自体の電力変換効率の向上が求められている。インバータ効率向上のうえで重要なのが主回路のスイッチング素子である。現在はIGBTが主流を占めているが,次世代の素子として注目されているシリコンカーバイド(SiC)やガリウムナイトライド(GaN)を適用した高パワー密度のドライブシステムの開発が精力的に進められている。これらの素子により大幅な損失低減が可能となり,省エネのほか,装置の小型化や高性能化が期待される。また,1996年に高調波抑制対策ガイドラインが制定されている。これは電流に含まれる高調波成分が及ぼす弊害が顕在化したための規制である。しかし,現在でも汎用インバータの多くは入力電流に高調波成分を含んでいる。高調波を抑制することは周辺機器への弊害をなくすばかりでなく,省エネにも寄与する。このほか,欧州が先行した有害物質使用制限に関するRoHS指令や3R(Reduce,Reuse,Recycle)に関するWEEE指令への適合も当然ながら求められる。

 当社はグローバルな市場に製品を提供しており,世界の顧客の声を具現化するとともに安全・安心で持続可能な社会の構築を目指すため,当社のコア技術の一つであるパワーエレクトロニクスを更に進化させている。地球温暖化,エネルギー需給のアンバランスなどの深刻な社会的問題の解決に貢献する環境配慮製品の開発を進めることで,社会に対し新たな価値を提供していく。

 具体的なインバータ製品では,10年ぶりに製品を一新する新シリーズの市場投入準備が整い,2016年4月に第一弾として産業用汎用高性能ベクトル制御インバータGA700を市場投入した。GA700は「多才」,「使いやすさ」,「安心」をコンセプトに,顧客機械を画期的に変える価値を提案し,生産性向上・省エネ・システムコストダウン・環境適合性向上を実現する。また,マトリクスコンバータ技術を応用したU1000はファン・ポンプ・コンプレッサなどの高調波レス用途,昇降機などの回生用途に最適であり,制御盤の小型・シンプル化,高調波レス,回生抵抗不要など設備・機械のトータルコストダウンを実現する。更に,GA700とU1000のプロダクトミックスでクレーン,コンプレッサ,射出成形機,押出機,プレスなどの機械に高付加価値を備える提案を積極的に推進する。

 本特集では,顧客機械の進化や環境保護に貢献する当社の最先端のインバータドライブとそのアプリケーション技術を紹介している。本特集を需要家諸賢の今後の参考にしていただくとともに,併せて当社のインバータ事業の取組みを酌みとっていただければ幸いである。

インバータの動向と当社の取組み

 当社は,1974年に世界初のトランジスタインバータVS−616Tを世に送り出して以来,インバータの革新的技術を次々に開発し,モータ制御のパイオニアとして市場をけん引してきた。2014年には世界で初めて産業用インバータの累計生産台数2,000万台を達成するなど,確固たる地位を保っている。

 現行の1000シリーズも好評を得ているが,市場投入以来約10年を迎えようとしている。この間に地球環境問題への更なる関心の高まりを受けてモータの高効率規制が強まるとともに,インバータに対する市場ニーズがますます多様化,高度化してきた。

 当社はこれらに対応してインバータの製品シリーズを刷新し,第一弾の機種GA700を製品化した。本稿では,新シリーズのコンセプトを中心に紹介する。

ゼロシリーズ及びGA700の位置付け

ゼロシリーズ及びGA700の位置付け

産業用汎用高性能ベクトル制御インバータGA700の開発

GA700の外観

GA700

 現在,世界の消費電力の40%以上を占めるといわれているモータの消費電力を抑制するよう,高効率規制が強まっている。その状況下で「多才」,「使いやすさ」,「安心」をコンセプトに従来のインバータシリーズを刷新し,産業用汎用高性能ベクトル制御インバータGA700を製品化した。GA700は一般産業用機械や設備用途に最適な産業用汎用製品である。

 GA700は1台でIM,IPMSM,SPMSM,SynRMと広範にわたるモータを全て駆動できるだけでなく,それぞれをPG付き・PG無しで制御することが可能である。ほかにも,省エネ,ネットワーク接続性,耐久性の向上だけでなく,カスタマイズのし易さ,小型化,セットアップ時間やダウンタイム時間の短縮,国際規格への対応などを実現している。

 本稿ではGA700の開発コンセプト,特長及び仕様を述べている。

クレーンアプリケーション技術

クレーン用マトリクスコンバータU1000

クレーン用マトリクスコンバータU1000

 クレーンに代表される荷役・搬送機械の分野では,精度や効率などの性能面だけでなく,省エネやCO2排出削減などの環境保護面のニーズがますます高まっている。当社はこのような要請に応えて,マトリクスコンバータU1000を適用したクレーン用ドライブシステムを開発し,同時にクレーン制御用ソフトウェアにも新機能を取入れて一層の充実を図った。クレーンは回生エネルギーの回収・利用に最適な用途であり,U1000の優れた特長を十分に発揮することができる。

 本稿では,U1000の特長及びクレーンアプリケーション技術の最新状況を述べている。

HVACアプリケーション技術

Z1000

Z1000

 地球温暖化防止への取組みが国際的に強く求められているが,国際経済の不透明な状況や先進国と新興国間の対立が絡み合って,国際協調の下での前進は必ずしも順調とはいえない。しかし,そのような中にあっても,日本は2020年度に対2005年度比で3.8%の温室効果ガス削減目標を掲げて国際的にコミットした。原発再稼働に慎重論が強い今日の状況に鑑みると,決して低いハードルではない。

 省エネの更なる進展のためには産業部門だけでなく民生部門での成果が望まれ,電力消費量が大きい空調の省エネ化は急務である。そのためインバータ制御の導入や同期モータの使用が進められてきたが,厳しい高調波規制などの民生部門ならではの課題が存在する。

 本稿では,当社のHVAC向け最新機種の紹介を通して,これらの課題に対する当社の取組みについて述べている。

エレベータ専用マトリクスコンバータU1000L

U1000L

U1000L

 近年のエレベータは,新設・既設更新ともに省エネ化,機器の小型化の要求により低速機種から高速機種まで永久磁石内蔵同期モータ(PMモータ)を適用したギヤレス駆動が主流になってきた。その中で,乗り心地や安全性の進化に加え,建物が高層化されるに伴いエレベータの高速化が進み,回生エネルギーの活用やモータドライブの高性能化などが求められてきている。更に,マンション,オフィスビル,データセンター,介護施設などのエレベータでは,特に周囲環境への配慮が必要となっている。

 本稿では,これらのニーズに単体で応えるため,2015年度省エネ大賞において経済産業大臣賞を受賞したマトリクスコンバータU1000をベースに開発したエレベータ専用マトリクスコンバータU1000Lの概要及び特長を述べている。

シミュレーション技術

熱流体シミュレーション

熱流体シミュレーション

 当社は,インバータの開発において従来活用してきたシミュレーション技術を更にグレードアップして,次世代のインバータ開発に適用している。開発拠点からの遠隔運用及び高速演算が可能なHPC(High Performance Computer)を整備しており,高効率なシミュレーション実行が可能である。開発・設計の上流工程においてシミュレーションを活用することで,実機検証を最小限に抑えることが可能となり,開発効率を大きく向上させている。

 本稿では当社のシミュレーション技術について,振動シミュレーション,熱シミュレーション及び樹脂流動シミュレーションに適用した事例を挙げて述べている。

車載用オールSiC高効率モータドライブシステム

 地球環境保護のための温室効果ガスの削減や省エネルギー化は今日における世界共通の課題となっており,その解決手段の一つとして日本でも自動車,建設機械,船舶などの駆動系を電動化する研究開発が推進加速されてきている。特に自動車では各国での排気ガス規制が強化されるのに伴い,電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の量産化に対応して高効率なモータドライブシステムの開発・普及が急速に進んでいる。

 当社は,従来のシリコン(Si)パワーデバイスより高効率でシステムの小型軽量化に寄与するシリコンカーバイド(SiC)パワーデバイスを採用した新しい電子式巻線切替方式を開発し,車載用オールSiC 高効率ドライブシステムに適用して試作評価を行い,良好な結果を得た。本稿では新システムの概要を述べる。

システム効率の実測結果

システム効率の実測結果

入出力正弦波フィルタ適用マトリクスコンバータ
開発及びSiC利用によるフィルタ小型化

入出力電圧電流正弦波マトリクスコンバータ

入出力電圧電流正弦波
マトリクスコンバータ

 通常,マトリクスコンバータの入力電流の高調波は入力フィルタを使用することによって解決される。しかし,マトリクスコンバータのPWM出力にはEMIやモータ軸の劣化などの問題が残っている。

 今回,これらの問題に対する解決策としてマトリクスコンバータの出力にLCフィルタを使用することを検討した。また,高周波スイッチングと低損失特性を有する高周波SiCスイッチング素子によるLCフィルタの小型化を検討した。更に,試作機を開発し,その評価を行った。

 本稿では,フルSiCパワー半導体モジュールを搭載した次世代マトリクスコンバータを世界に先駆けて開発し,究極のドライブ性能である「入出力電圧電流正弦波」を実現した結果を述べる。

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